東京高等裁判所 昭和27年(ネ)825号 判決
控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人と被控訴人間の前橋地方裁判所沼田支部昭和二十六年(ヨ)第四号土地立入禁止仮処分申請事件につき同裁判所が昭和二十六年十月十三日なした仮処分決定を取り消す。被控訴人の仮処分命令申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「(一) 被控訴人は、昭和十七年三月三十日宗教団体法に基いて設立され、同年六月十二日その登記を経た宗教法人である。昭和二十六年四月三日施行の宗教法人法による宗教法人設立手続は未了である。(二) 控訴人主張の本件山林伐採に関する代行契約締結の事実を否認する。(三) 仮に右契約が締結されたとしても右契約の締結につき被控訴人の総代の同意及び所属宗派曹洞宗主管者の承認がないから無効である。(四) 右契約につき控訴人が善意無過失であることを否認する。」と述べ、控訴代理人において「(一) 被控訴人の設立登記及び宗教法人法による設立手続の未了なることは認める。(二) 本件山林伐採契約の目的物は伐採されたる立木であるから、不動産ではなく、従つて宗教法人令第十一条の適用がない。(三) 仮に本件契約の目的物が不動産であるとしても、本件山林伐採代行契約締結につき被控訴人の総代の同意を得た。宗教法人令第十一条第一項によれば、総代の同意又は所属宗派主管者の承認のうち、いずれか一方の同意又は承認をもつて足ると解すべきであるから、右契約は有効である。(四) 仮に右契約が無効であるとしても、控訴人は右契約の締結にあたり善意無過失であつたから、被控訴人は右契約履行の責に任じなければならない。(五) 原審において被控訴人が本件契約が所属宗派の主管者の承認がないから無効であるという主張をしなかつたにかかわらず原審が所属宗派の主管者の承認のないことを理由として本件契約を無効と判断したことは民事訴訟法第百八十六条に違反し、原判決は取り消さるべきものである。」と述べた外、原判決事実摘示の記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人は昭和十七年三月三十日宗教団体法に基いて設立され同年六月十二日その登記を経た宗教法人であること、並びに昭和二十六年四月三日施行の宗教法人法による宗教法人設立手続が未了であることは、当事者間に争のないところであるので被控訴人は、昭和二十年勅令第七百十九号宗教法人令附則第二号により宗教法人令による宗教法人とみなされ、さらに昭和二十六年四月三日公布即日施行の宗教法人法附則第二項によつて右宗教法人令が廃止された後も同法附則第三項以下の規定により宗教法人令による宗教法人として存続し、被控訴人については宗教法人法施行後もなお宗教法人令が効力を有することが明らかである。
よつて、被控訴人の本件仮処分申請の当否について按ずるに、群馬県利根郡池田村大字上発知字迦葉山丙三百五十番の七、山林四十万八千百六十八坪(以下本件山林と略称する)がその地上の立木を含め、現に被控訴人の所有に属することは、控訴人の明らかに争わないところであり、かつ成立に争のない甲第三号証によつても、その疏明があるものと認むべきである。それ故控訴人において、右山林伐採、搬出、売買等の処分行為をなす権利を有することの疏明をなさざる限り、被控訴人は右山林の所有権に基き、今や右山林を伐採せんとしている控訴人に対し右山林の伐採、搬出、売買その他一切の処分行為を禁止することの仮処分を許容することは、右山林の性質上これが一旦伐採される時は被控訴人に原状回復が殆んど不可能の損害を与えることから考えても、まことに相当なことである。
しかして、控訴人は被控訴人代表者は昭和二十六年一月上旬頃控訴人に対し本件山林全山の立木の伐採、譲渡、売買を一任する趣旨の立木伐採に関する代行権を与え、代行手数料として石当り金百円を控訴人において取得することを得る旨を約束し、かつ右契約については被控訴人の総代の同意を得たと主張しているけれども、山林の立木は立木登記を経たときは、独立の不動産であり、立木登記を経ないときもその地盤である土地の一部として不動産であるというべきであるから、被控訴人がこれを処分するにあたつては宗教法人令第十一条により、被控訴人はその檀徒、信徒の総代の同意及びその所属宗派の主管者の承認を得なければならないのであつて、そのいずれか一方をかくもその処分行為は無効でありただ相手方が善意無過失なるときはその行為をなした寺院の主管者たる被控訴人代表者個人が相手方の選択に従つて履行又は損害賠償の責に任ずるに止まるのであるから控訴人がその主張の契約の成立及びそれに対する被控訴人の総代の同意並びに所属宗派主管者の承認につき疏明をなさない限り、控訴人が右総代の同意又は所属宗派主管者の承認を得たと信じたと否と、かつこれにつき過失がなかつたと否とにかかわらず被控訴人の求める前記仮処分を排斥することを得ないものというべきである。しかして控訴人がその主張の代行契約につき被控訴人の所属宗派たる曹洞宗主管者の承認を得たことは、控訴人の毫も主張疏明しないところである。
控訴人は、原裁判所が被控訴人の主張せざる被控訴人所属宗派主管者の承認がなかつたことを理由として控訴人申請の仮処分を認可したことをもつて民事訴訟法第百八十六条に違反する違法ありと主張しているけれども、右仮処分の取消を得るためには控訴人において本件山林伐採に関する権利を有することを疏明すべく、右権利を有することの疏明中には被控訴人所属宗派主管者の承認を得たることをも包含すべきであるから、原審がこの点につき被控訴人の主張をまたずして判断したのは相当であつて、何らさしつかえないばかりでなく、当審においては被控訴人はこの点に言及しているのであるから控訴人の右主張はなおさら理由がない。
次に控訴人は、被控訴人がその所有の不動産を処分するためには総代の同意又は所属宗派の主管者の承認のいずれか一方をもつて足ると主張しているけれども、宗教法人令第十一条第一項後段に「当該寺院又ハ教会ガ教派宗派又ハ教団ニ属スルモノナルトキハ尚所属教派、宗派又ハ教団ノ主管者ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス」と規定されている以上総代の同意に加うるに所属宗派主管者の承認を受くるを要することは明らかである。
しかのみならず、本件に現われた一切の疏明方法によるも控訴人が被控訴人から本件山林中「三ノ沢」地内の立木二千石以外の山林を伐採することを許容せられたこと及びこれにつき被控訴人の檀徒総代の同意を得たことを認むるに足る疏明はない。成立に争のない乙第一号証は、講談社宛の証明書であつて、原審における被控訴人(申請人)代表者中島信竜本人尋問の結果によれば右は同人が控訴人に対し被控訴人のため講談社より金融を得ることの斡旋を依頼するに当り、控訴人の申出により控訴人の信用を高めるために作成して控訴人に交付したものであつて、決してこれにより控訴人主張の如き権利を与えたものでないことが認められ、(この点に関する原審における控訴人(被申請人)本人尋問の結果は信用できない。)また成立に争のない乙第三号証の一ないし四もまた本件山林中「三ノ沢」地内以外の立木に関する代金また保管金の受取書であるとはなしがたいので、ともにこの点に関する疏明となし難い。
果して然らば控訴人が少くとも本件山林中向窪地内の立木につき処分権を有することは疏明ありということができないので、原審が被控訴人に対し金八万円の保証を立てしめ控訴人に対し右向窪地内の立入並びに右地内の立木の伐採搬出売買その他一切の処分行為の禁止を命ずる旨の仮処分決定をなしたのは相当であつて、右決定はなお被控訴人の委任する前橋地方裁判所所属執行吏は右禁止事項を公示するため適当の方法をとるべき旨定めているが、本件仮処分は控訴人に対して不作為を命ずるものであるから、仮処分決定が控訴人に送達されると同時に効力を生じ執行吏をして右事項を公示せしめることは必しも必要とはいい難いけれども、控訴人が本件山林中の立木を第三者に売り渡し、第三者がこれが伐採に着手せんとしていることがうかがわれるから、紛争をさけるため、右仮処分を執行吏をして公示せしめることもまたあながち必要の範囲を超えたものとはいい難い。
よつてさきに原裁判所の発した仮処分決定はこれを認可するを相当とすべく、右と同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪俣幸一)